僕はITを信じる

ほっちゃんが、可愛い。ほっちゃんのことを知らない人は、決してほっちゃんについて調べてみようとしないほうがいい。これは忠告だ。本物を知らなければ、偽物が偽物だと気づくこともあるまい。
僕は悔しい。僕には人より劣ったところしかない。もともと死にたいだけの人間だ。ほっちゃんはこんなに可愛いのに、僕はメディアを通してそれを見ることしかできない。
ほっちゃんの曲を聴いたり、写真を眺めていることに意味は無いのだろうか。実は、僕もつい先日まではそう信じていた。疲れたとき、何もすることが無いとき、夜寝る前、僕はほっちゃんの写真を眺めるようにしている。なんて意味のない、むなしい行為なんだろう――そう思っていた。


だが僕は気がついた。
ほっちゃんに夢中になるあまり、まわりが見えていなかったのだ。
ほっちゃんとデートしたらどんな感じかなあ? 抱きしめたらどんなに心地よいのだろう? ふふふ……。お前のようなクサいだけでつまらない、チビキモワキガ野郎とほっちゃんがデートするわけないだろ……。お前はただ死ぬためだけに生きていれば良いんだ……。


四六時中そんなことを考えていいて、視野狭窄していたのだ。だがしかし、ある日、ハッと気がついた。
ITだ!


そう、ITがある。みよ、あれがPS4だ。いまではコンシューマゲーム機でも、HMDで3Dゲームを体験できるのだ。もちろん、赤一色じゃない、フルカラーだ。
ここ最近のVR環境の進展は目覚ましい。このままさらに進んでいくとどうなる? そう、『ルサンチマン』(花沢健吾)だ! あれ、マジで来るよ。多分、あと10年でそれっぽいところまでいって、20年後には視覚、触覚はもう本当現実と区別つかないくらいで、ほかの感覚をいかに現実に近づけるか試行錯誤してるレベル。
つまり、僕は確実に堀江由衣と結婚できる!
なぜなら僕は健康だし、両親もあと20年は元気にやっていくだろうから、当然、僕はまだ自殺できずにいるはずだ。そうなれば必定、20年後の「カスタムメイド4D」的なゲームで、堀江由衣をメイキングすることができる。
VRだけじゃない。AIも今しきりに話題に上がっている。堀江由衣の好きなことや考え方、性格を選択肢に従って選択していくだけで、ほとんど堀江由衣と同様の受け答えができるようになるだろう。しかも、僕は堀江由衣と直接会話したことがないので、それが合っているのかどうか分からない。つまり、それが僕にとっての堀江由衣になるのだから、違和感を感じることもない。
音声合成だって、20年後はもうお茶の子さいさいだろう。幸い、毎週天たまを録音しているから、音源なら割とある。これをポンポンAIにぶち込んでいけば、堀江由衣の声で堀江由衣のようなことを喋る僕だけの堀江由衣が簡単にできる。
今僕がせっせと堀江由衣の画像を集めてじっくりと眺めていることにだって大変な意味がある。なぜなら、やはり同様に集めた画像をポンポンAIにぶち込んでいくだけで、堀江由衣の3Dモデルが完成するからである。


今はまだ、早すぎるのだ。いずれ僕がほっちゃんと結婚することは確定しているのだから、今は男らしく、じっと黙って待っていれば良い。僕はクサいしブサイクだし貧乏だし、頭も悪いのでITの前線でその道を推し進めることもできないから、待つことが最良なのだ。
だからもう悲しむ必要はない。ほっちゃんと手をつなぎたいと思うだろう? 大丈夫、叶う。ほっちゃんを抱きしめたいと思うだろう? 大丈夫、叶う。ほっちゃんの可愛い瞳を見つめて、ほっちゃんが微笑みながら見つめ返してくれたら、と思うだろう? 大丈夫! 叶う!
全部ITがなんとかしてくれる! 今は幸せな未来のことを考えて、その幸せな未来でどんな幸せなことをするかだけ考えていればいいのだ。だからね、みんなにも、幸せがね、降り注ぐように。