何年生きても何していても。

なんで僕って駄目なんでしょう。これまで生きてきて、もはや駄目だから僕、駄目でなければ僕ではない、といった認識まで生まれつつあります。よかった僕は存在しないわけですから、あながち間違いではないのですが。


僕は誰かから逃げていました。女の子と一緒に。彼女は錠剤を持っていました。それは飲めば死ぬ薬でした。
僕らは小屋に隠れていました。埃まみれで、隅にはクモの巣が張っていました。小屋の奥には男が座っていました。頭をもたげて、小屋と同じく埃に覆われたその姿から、彼はずっと昔からそこにそうしていたのだろうと思われました。しかしそんな男は、僕や部屋の隅に縮こまっている彼女にとってはどうでもいいことでした。
僕は彼女に尋ねました。
「ひとつくれない?」
彼女は無言で僕に錠剤を差し出しました。僕はそれを受け取り、胸ポケットにしまいました。
僕は確かに誰かから逃げていましたが、誰かが追っているのは僕じゃなくて、彼女のほうでした。理由はわかりません。まもなく彼女は誰かに見つかって、どこかに連れ戻されました。僕も彼女も別段なにも思うことはありませんでした。もとからこうなることがわかっていたかのように。
そして僕の胸ポケットには錠剤が残りました。
この錠剤を呑めばいいんだ。
先ほどまでこの小屋の中には表情がありませんでした。僕も彼女も男も誰かも、みんな無表情でした。しかし僕はそのとききっと小さく笑っていたことでしょう。死を手に入れた喜びに。
僕は立ち上がり小屋を出ました。小屋を出るとそこは長い廊下でした。病院のようなところでした。
行くところもなしに、手に入れた死について思いを馳せて歩いていると、ハッと気づいたのです。
呑んでいいわけがない。