かゆうま

お腹は減ったけどご飯を見てもあまり食欲が……。炊飯器の8hという文字がさらにそれを加速させる……。ああ――、あうあうあ――。
これはピンチだ。時間が経てば経つほどおいしくなくなること請け合い。そうだ。今日は買い物にでもでかけてカレーを作ろうかしら。それならご飯さえあればいくらでも美味しくいただける。しかし腹はカレーを待ってはくれぬ。僕は今、お腹が減っているのだ。
何かこのご飯をおいしくしてくれるものはないか? 僕は重い腰を上げて、台所の下を探してみた。
僕はそこにレトルトパウチ食品を見つけた。はて。こんなものがあっただろうか。あ、そうだ、これはこないだ母親が送ってきてくれたものだ。ああすばらしい。なぜこんな素晴らしいもののことを忘れていたのかというと、僕は普段こういったものを食べないからだ。こういったものに日常的に手を出したとすれば、それは手抜きの連続に他ならないのであって、手抜きは人を駄目にし、お金の浪費に拍車をかけるのである、と信じているからだ。だからこれを母親が送ってきてくれたときも、「まったく。田舎からの宅配便といえば野菜と相場が決まっているではないか。もちろん実家で野菜なんて作ってないけども。それにしてもレトルトはいかん、レトルトは」かようのように思ったのである。若さゆえの過ちとはこのこと。僕は「お母さん、ありがとう」と心の中でつぶやいて、お湯を沸かした。
激しく揺れる水面に浮かぶ「豚キムチ丼」の文字のなんと胸を躍らせることか。長い3分を乗り越えて、熱い、熱すぎる、出せるわけない、これだからレトルトは駄目なんだ、と文句を言いながらも、漂ってくるキムチとコチュジャンの刺激の強い香りに僕の胃は激しく胃液を噴出させた。僕のここ、もうぐっちょぐちょに濡れてる……(胃酸で)。
かような努力の末にありついた豚キムチ丼のなんと美味しかったことか。一口目にしてわかった。「あ、これやばい。かゆい」
思いのほか辛かった豚キムチ丼。しかしうまかった。でも痒かった。頭が、顔が、背中が、痒かった。
そして僕は気がついた。あ、これって……(表題)。