眠たかったなあ

新聞の勧誘、というやつが僕んちにもついに来た。
そのとき寝ていた僕は、しかしチャイムの音に飛び起き反射的に玄関に向かいドアを開けていた――インターホンがついているというのに。外は暗く、冷たい雨が降っていた。そこに立っていた男は僕に何かを話しかけたが、僕の意識はドアを開けると同時に流れ込んできた冷たい外気にのみ向いていた。
「え? なんですか?」
「はい、あの、何か新聞を取っていますか?」
聞きなおしても僕の頭はぼおっとするばかりで、その言葉の意味を理解するのにしばらく時間がかかった。ようやっとのことで新聞は取っていないと言うと、男は片方の肩から交差するように提げたカバンからトイレットペーパーを取り出し、僕に手渡した。「これを全部渡して来いと言われているので……」
「あ、そうですか、はい」男はほかに粉末洗剤を二つほど僕によこした。僕はトイレットペーパーはまだしも、粉末洗剤はチョットいらないな、と思った。
「洗剤はいりませんか?」
「あ、はい、チョット液体洗剤を使っているもので」
そう言いながら、なぜ粉末だといけないのか不思議に思った。そして男は僕に確認を取ったにもかかわらず、その洗剤をまたカバンに戻すようなことはしなかった。僕はそれでもいいかと思って黙っていた。
「あの、本当に、ちょっとの期間だけでいいので……新聞を取っていただけませんか……」
男がそう言っても僕はまだよくわからなかった。男がまたカバンをごそごそとし始めたところで、僕はようやく、彼が新聞の勧誘に来ているのだと気づいた。そして今まで渡されたものが新聞勧誘のための道具だったとわかった。
「あー、いえいえ、あの、新聞は取りません」僕はかがんで先刻床に置いたトイレットペーパーを持つと男に押し返した。