グイター。

ほんとかよー!? じゃあ弾いてみろよ!
じゃーんじゃかじゃかじゃっじゃっじゃっじゃかじゃーんじゃかじゃかじゃっじゃっじゃっじゃかじゃーんじゃかじゃかじゃっじゃっじゃっじゃかーん
え…、あ…。そう…。うまいね……。え? 俺? いやいや俺はいいよ! 好きなだけ練習して! うん。いやいやほんとに! いいってまじで! うんうん! あ、じゃあ俺は漫画でも読んでるね!!


僕の周辺には小さな「ギターブーム」が到来していた。何か楽器演奏できたらかっこいいなー、ギターとかやってみたいな。なんて思っていたものの、やはり楽器は高い。そんな僕にギターを買う勇気を与えてくれたのがこの「ギターブーム」だった。
僕は3万円を財布にねじ込み、道路は凍ってすべるというのに自転車で颯爽と楽器屋へと向かった。当初の予定ではどのギターにしようか散々迷うはずだったのに、3万円で買えるギターは思っていたよりも少なくて、結局「初心者セット」のような、いろんなものがついてくるギターを買った。一番安いギターだったけれども、僕はとてもうれしかったんだ。
アンプやギターの大きさに戸惑い、自転車で来たのは間違いだったかもな、と思った。それでも僕の自転車の速度はスムーズで、ペダルをこぐたびになる軋んだ音も、僕のギタリストとしての新たな道を歓迎しているように聞こえた。


こうして僕のギターとの生活が始まった。


セットについてきた各部品の包装を破り捨て、いざ出来上がったギターのできる環境。新品の匂い。圧倒的な存在感を放つアンプ。そして光沢が美しいマイ・ギター。帰ってきたばかりで手は悴んでいたけれど、いまの僕にはまったく問題の無いことだった。さあ、何を弾こうか。
…弾く? ギターってどうやって演奏するんだろう?
僕はギターという楽器をぜんぜん知らなかったのだ。

一緒についてきた教則本を読んでみることにした。僕はすぐにでも弾きたいのに、教則本は暢気に各パーツの名称を教えてきた。フレット、ナット、ペグ、これが1弦で、こっちは6弦。。。あー、もうわからない。飛ばしちゃえ。
僕はてっきり一本一本弦を弾くのだと思っていたのに、実際の伴奏ではコードストロークといって、すべての弦を一気に弾くらしい。思っていたより簡単そうじゃないか。ちなみに一本ずつ弾くテクニックはアルペジオと言うそうだ。いつか僕にもアルペジオができる日が来るのだろうか。
教則本を読み進めていくと、コードというものが登場した。これはどこかで聞いたことがある。確か、Cがド、とかそういうことで、Fが難しい。Fが何のことだかはわからないけれど。
教則本曰く、弦を押さえるパターンのことをコードと言って、そのコードを押さえながらストロークする、らしい。隣に少し変わった絵が添えてあった。6本の線と、それに垂直に垂れ下がっている四つの何か。ははあ、これと同じように弦を押さえればコードを押さえれるということか。それにしてもこんな風に指って動くのだろうか。。。ちなみに、この絵のことをダイヤグラムというそうだ。
よし、こんなところでいいだろう。ギターという楽器が見えてきた。つまり、ギターを弾くためには…。コードを覚えないといけない。
それからというもの、毎日僕は練習に励んだんだ。


3ヶ月が経っただろうか。練習のわりにはあまりうまくなっていないような気がしないでもない。でも確かにコードチェンジには少し時間がかかるが、始めたころと比べるとはるかにうまくなってるだろう。そんな話を僕より後にギターを始めた友達としていると、「俺弾ける曲あるよ」って言い出すんです。なんて曲? と聞いてみると、青いベンチと答えました。サスケです。実は僕もこの曲を練習していましたが、とりあえず黙っておきました。そして、本当に弾けるなら弾いて見せてよ、ということで、結構前からギターやってる友達もついでに誘って、彼の家に行くことにになりました。
彼がギターを買ったころ、彼の家にいってギターを見せてもらったりしましたが、やっぱりそのときは買ったばかりで、彼はなにもできませんでした。まあ、最初なんてこんなもんだよ、頑張れ、とかいっちゃうくらい僕のほうがギターを練習していたわけです。そんな彼の記憶しかないものですから、実際弾けないんでしょ? とかからかったりしていました。まあ弾けたとしても1曲通すのに10分以上かかるんじゃないの? みたいな。
彼の家について、じゃあ弾いてみてよと言うと、すんなり弾いてくれました。実際僕はそんなに期待していなかったんですが、なかなかうまかったです…、っていうか僕よりぜんぜんうまかったです。コードチェンジとかスムーズすぎるし、しまいには青いベンチのCDかけて、それにあわせて弾いていました。僕は思いましたね。なんで僕にはこんなに才能が無いんだろうと。


彼は散々腕を見せ付けた後、僕に向かって「やる?」とか言い出すんです。いやいや、それはちょっと無理だろ。だって1曲通すのに10分かかるのは俺のことだぞ。本当そういうの無理だから。そうして僕は汗を流しながら断り、本棚にあった漫画を見ることに集中したのでした。まったく厳しい時間だったぜ……。