恋っていいよね☆ 毎日が輝いてルンルンするもん☆

思えば小学4年生の頃が良かったんだ。あの頃はまだ不器用だった。自分を他人に見せるということを知らなかった。かっこつけるようなことはあったけど、平気で人前で鼻くそほじるようなやつだった。素の僕がいた。
そして恋をしていた。将来は絶対あの子と結婚する、と思っていた。クラスで埋めたタイムカプセルの、未来の自分への手紙に、「〜〜ちゃんと結婚していたら嬉しいです」といった具合のことを書いた気がするし、やっぱり書かなかった気もする。気がつくと、いつもその子のことを目で追っていたし、「お前〜〜のこと好きなんだろ」と言われると、ムキになって否定していた。
もちろん席替えは、あの子の近くの席になれるかもしれない、というビッグイベントで、同じ班になれただけでも、給食の時間のことを考えると胸が弾んだ。その子もポケモンをやっていたので、ポケモンの話をした。
その頃、ポケモンセンターという名のポケモングッズの販売店が、東京あたりにできたのだが、その子はそのポケモンセンターに実際に行ってきたらしい。僕が「東京は遠いから行けないなあ」というと、その子はポケモンセンターオンラインのことを教えてくれた。それは通販できる場所であり、パソコンのインターネットというところにあるそうだ。その子はそこにも行ったことがあるらしい。しかもそこでは、インターネットを通して会話ができたりするらしい。僕がパソコンを使いたい思ったのも、そのポケモンセンターオンラインで、その子と会話できたら嬉しいと思ったのが始まりだ。(しかし僕の家のパソコンはインターネットに繋がっておらず、僕のポケモンセンターオンラインへの訪問はついに成し遂げられなかった)。
うん? つまり? 何が言いたいんだ?
そう、つまり、僕はそれ以来、恋をしていない。あの子かわいいな、と思うことはあっても、この小学4年生の時のあの子に対するような、熱烈な恋心を抱くことはなかった。
そして今、僕はあのころより断然、器用になっている。成長に伴って、自分というものを自覚し始めたからだ。僕はそこらの人間と同列に語られるような、普通の人間なんかではなく、スペシャルな、そう、人間ですらない生き物なのだと自覚してしまった以上、器用になる以外に道はなかった。
今では常に人の目を気にしている。近くに人間の存在がある限り、「お前は人外だ!」と糾弾されるのを常に恐れ、自分が人間のように見えるよう必死に立ち振舞う。その振る舞いこそが、不恰好で醜いものだと知っていながら、それをやめることは決してできない。
ふと気がつくと、あの小学4年生の頃の、席替えの時間に僕がいたとする。その時僕は、あの子の近くの席になりたいと思うだろうか。いや思わないだろう。近くの席になったが最後、僕の作る弱々しい虚構の人間像は即座に崩れさり、そこにはただ気持ちの悪い、醜く嫌な臭いのする人外がいるだけなのだ。近くの席になるどころか、その教室から今すぐ逃げ出して、走って走って世界の端まで走り抜けて、そのまま消えてしまいたいと思うだろう。もちろん実際にそんなことは出来もしないで、下手くそな人間芝居を続けるだけなのだ。
なぜ僕は生きているんだ。この世にあって、虚しさをその身に体現したいとでもいうのか。
思えば小学4年生の頃が良かったんだ。現実は初めから悲しいものだった。ただ自覚こそが僕にそれをもたらした。
なぜ僕はまだ生きているんだ。